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あたらしい共有について 第10回

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「クールジャパン」が国家戦略として騒がれだして一年半ほど経つ。これは1997年、英国労働党が返り咲いた「第三の道」戦略のひとつで、国家をまるでブランドのように扱い(いわゆるブランディング)、自国の輸出品に高い価値をもたらすという施策、それを「クールブリタニア」と呼んだことに習っている。

「クールブリタニア」の基本概念を作ったのは、ベルギーのシンクタンク「ダモス」に所属していた当時23歳の若者マーク・レナード。彼の著書「登録商標ブリテン」は、国旗から羊毛に至るまで、野暮ったいイメージを対外的に持つ「英国」のイメージをいかに刷新し、世界へと届けるかを論じていた。特にソフト産業が国家のイメージを牽引することは明白であり、この書に基づき、時の英国ブレア首相は、各国の大使館にブランド・マネージャーを配属し、DJのファットボーイスリムやロックバンドのブラー、そして映画「トレインスポッテイング」などの英国を代表するコンテンツを世界的に普及させるために予算を投入したのである。そして、この戦略は見事に当たり、あたらしい英国の風が世界を席巻することになった。

1999年、当時総務省情報通信審議会で、僕は来るソフトパワーの時代に、この「国家ブランディング戦略」の重要性を説いたが、耳を貸すものは誰一人としていなかった。恐らく、なにを言っているかわからなかったのだろう。その後、韓国が英国の戦略に習って、K-POPや韓国ドラマをアジア中に流通させたのはご存知の通りだ。

遅れる事十数年。日本はやっと「クール」の概念を理解するに至った。だが、時は遅く、「クール」という言葉は既に使い廃れ「クール」でなくなってしまったことは皮肉としか言いようがない。

先日、香港に滞在時に、やたらと平仮名の「の」の文字を見かけた。缶詰の名前が「豚中の最」とネーミングされ意味不明だが、漢字ばかりが並ぶ中国語のなかに、とにかく「の」を入れる事が香港人にとって「日本風クール」だそうで、町中あらゆるところに意味不明の「の」の文字が乱立している。

英国の「クール」は、その時代には「カッコいい」「共感を呼ぶ」意味だったが、いまの時代の「クール」の意は、残念ながら「少し変」なもので、けっして「共感を呼ぶ」ものではなく、本来の意の「クール」は日に日に死語に近づいている。もはや「クールジャパン」は、平仮名の「の」程度のものだということを理解できるかどうかが、ソフトパワーの時代に問われる資質なのだろう。

高城剛

1964年葛飾柴又生まれ。日大芸術学部在学中に「東京国際ビデオビエンナーレ」グランプリ受賞後、メディアを超えて横断的に活動。著書に『「ひきこもり国家」日本』(宝島社)、『オーガニック革命』(集英社)、『私の名前は高城剛。住所不定、職業不明。』(マガジンハウス)などがある。自身も数多くのメディアに登場し、NIKE、NTT、パナソニック、プレイステーション、ヴァージン・アトランティックなどの広告に出演。総務省情報通信審議会専門委員など公職歴任。2008年より、拠点を欧州へ移し活動。現在、コミュニケーション戦略と次世代テクノロジーを専門に、創造産業全般にわたって活躍。ファッションTVシニア・クリエイティブ・ディレクターも務めている。最新刊は『時代を生きる力』(マガジンハウス)を発売。

www.takashiro.com

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